ジャンゴ 繋がれざる者〜歴史の犠牲者たちに映画の中で復讐させるタランティーノの世界
ヒトラーをはじめとしたナチスの幹部たちを映画館ごと炎上爆破してしまうという、ユダヤ系の立場からの壮大な復讐制裁劇『イングロリアス・バスターズ』(2009)で、キャリア最高の興行収入を記録したクエンティン・タランティーノ監督。“史実の書き換え”なる新たな手法を見出した彼は、次作で映画オタクである自身のルーツとでもいうべき「マカロニ・ウエスタン」に取り掛かる。
「悪を裁くのは正義ではなく流れ者だ」という世界観を絶対的な美学とするこのジャンルは、言い換えれば監督としての真価が問われる極めてハードルの高い領域。だがタランティーノにとってそれは宿命であり、避けて通れない“映画道”のようなもの。
この愛すべきクレイジーな映画作家は、そこに南部の奴隷制度というアメリカの残虐な過去と向き合うことにも同時に取り組みながら、とんでもなく見応えのある「マカロニ・サザン」を撮り上げた。前作の復讐制裁劇を踏襲した『ジャンゴ 繋がれざる者』(Django Unchained/2012)の完成だ。
アメリカ映画はずっと南部の奴隷制度の実態を描くことを避けてきた。アメリカにとって恥すべき汚点だからだ。俺は歴史の犠牲者たちに、映画の中で復讐させてあげたい。
過去のマカロニ・ウェスタンへのオマージュを忘れることなく、特に本作ではそのタイトルからも分かるように、セルジオ・コルブッチ監督作品(代表作は『続・荒野の用心棒』/原題Django)からの影響が漂う。さらにブラックスプロイテーションやラブストーリーの要素もサンプリングし、唯一無二のクレイジーワールドに到達した。
この種の作品にはお約束の賛否、特に黒人でもあるスパイク・リー監督から猛烈な反論を喰らったりするが、映画に命を捧げるタランティーノはそんなことでは屈しなかった。社会的映画を作ろうとしたんじゃない。誰もやらなかった映画作りに夢中になっただけなのだから。
主役のジャンゴ役はジェイミー・フォックス。ジャンゴを見出すヨーロッパの賞金稼ぎ役にクリストフ・ヴァルツ。さらに映画はもう一組のコンビが登場する。大農園の御曹司役のレオナルド・ディカプリオ、そして奴隷頭役のサミュエル・L・ジャクソン。この4人の凄まじい演技力、そして圧倒的な存在感のおかげで165分の長編も瞬く間に過ぎていく。本作で初の悪役を演じたディカプリオは「この役をやり遂げた今、もうどんな..