セッション〜“完璧な音楽”を求めてぶつかり合う狂気の師弟関係
今、最も注目されている映画監督の一人、デイミアン・チャゼル。まったくの無名だったこの監督を一気に有名にしたのが『セッション』(Whiplash/2014)。サンダンス映画祭でグランプリを獲得し、アカデミー賞にもノミネートされてしまった。
僕は戦争映画、あるいはギャング映画のような音楽映画を作りたいと思った。楽器が武器に変わり、音楽が銃のように暴力となり、学校のリハーサル室やコンサートステージが戦場に変わる……僕は演奏の一つ一つを、カーチェイスや銀行強盗のような、生死を分ける闘いであるかのように撮影したかった。
まさに天才らしい発言ではあるが、実はこの作品は自らの体験が“原作”となっている。それは高校時代のジャズバンドで味わった恐怖体験。
チャゼルは毎日何時間も地下の防音室にこもり、手から血が出るまでドラムを叩き続けた。リズムをミスる恐怖。テンポが遅れる恐怖。そして指揮者に対する恐怖こそが何よりも大きかったからだ。その教師のおかげで、彼は吐き気を繰り返し、食事も喉を通らない日々を過ごす。大好きだった音楽が悪夢と化す。
結局、ニュージャージーの未熟な高校生バンドは、ダウンビート誌から「全米ナンバーワンのジャズバンド」に選ばれ、大統領就任式や有名なジャズフェスで演奏するほどの栄誉に輝く……教える側と教わる側の、あのあまりにも緊張に満ちた関係をもっと深く掘り下げるため、『セッション』は作られた。
(ここからストーリー。ネタバレ要注意)
全米屈指の名門校、シェイファー音楽院。バディ・リッチのような偉大なドラマーを目指して入学したニーマン(マイルズ・テラー)は、日々孤独な練習に打ち込んでいる19歳。ある日、学院の伝説教師フレッチャー(J・K・シモンズ)のバンドにスカウトされて歓喜する。
しかし、彼を待ち受けていたのは僅かなテンポのズレも許さない、異常なまでの完璧さを求めるレッスンだった。初日から椅子を投げつけられ、頬を平手打ちされ、屈辱的な言葉を浴びせられたニーマンは、泣きながら俯くことしかできない。彼に限らず、メンバー全員が悪魔のごとき形相のフレッチャーによる狂気じみた指導に怯え、支配されていた。
それでもニーマンは水ぶくれや切り傷にまみれた練習を通じ、ハンク・レヴィの「Whiplash」を暗譜してコンクールの優勝に貢献。補欠からバンドの第1ドラマーに昇格する。しかし、既..