グッド・ウィル・ハンティング〜ビート世代の風景を受け継いだガス・ヴァン・サント監督作
『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(Good Will Hunting/1997)には忘れられないシーンが3つある。
一つはエンドロールに映る真っ直ぐに伸びた一本の道。そして西へ向かって走り続ける一台の車。これだけだと何てことのない映像のように思うかもれしない。だが、映画を観ればこれが特別なものに感じる。主人公は今まさに「生きる」ことに歓喜し、自分の殻を破り、住み慣れた町を離れ、「会いたい人」のために移動していくことを選んだのだ。
ジャック・ケルアックの小説『路上/オン・ザ・ロード』の断片のようなこの映像がしばらく頭から離れなかった。今回改めて観ていると、最後に「この映画をウィリアム・S・バロウズとアレン・ギンズバーグに捧ぐ」というクレジットを見つけて、何だか胸が熱くなった。
ビート・ジェネレーションを代表する二人は、映画が公開された同じ1997年に亡くなった。『ドラッグストア・カウボーイ』や『マイ・プライベート・アイダホ』を撮ったガス・ヴァン・サント監督にとって、それは絶対に刻まなければならない風景だったに違いない。
次は、最愛の妻を亡くして失意の中で生きる大学講師のショーン(ロビン・ウィリアムズ)が、書物の引用を武器に他人を論破することを楽しんでいるかのような天才数学青年ウィル(マット・デイモン)に言い放つところ。
君には両親がいないね。もし僕がこう言ったら? 「君のなめた苦しみはよく分かるよ。ディケンズの『オリバー・ツイスト』を読んだから」。どういう気がする? 僕にとってはどうでもいいことだ。君から学ぶことはない。本に書いてある。君自身の話なら喜んで聞こう。
自分への愛より強く愛した誰かを失う。その悲しみを君は知らない。君はそれほど何かを愛したことがあるのか。自分が傷つくことを恐れ、先に進もうとしていない。今の君が知性と自信を持った男なのか。今の君はただの生意気な怯えた若者に過ぎない。
要するに、真の人生は書物から得た知識では学べない。自ら勇気を持って経験を積むことなのだと、ショーンは静かに教えるのだ。同じロビン・ウィリアムズが演じた『いまを生きる』のキーティング先生を思い出す。
ウィルは桁外れの頭脳を持ちながら、幼少期に受けた里親からの虐待で心を閉ざし、貧しいので大学へも行けず、南ボストンにあるスラム街のようなエリアに住み、ワーキングクラスの日々を..