
ラブ&マーシー 終わらないメロディー〜ビーチ・ボーイズとブライアン・ウィルソンの物語
1982年11月、ビーチ・ボーイズのメンバーから「解雇」を言い渡されたブライアン・ウィルソンは、その言葉がしばらく理解できなかった。「ビーチ・ボーイズを創ったのは僕なんだぞ!」と叫んでも、ドラッグやアルコールに溺れた退廃的な生活のせいで、遂に体重150キロ以上にまで達した彼の姿は、まるでグッドイヤーの飛行船のような身体だった。
当時の僕は、ドラッグ・トリップを繰り返す不幸な60年代を引きずったままの麻薬常用者だった。僕は深い霧のかかったような状態の中で生きていた。
頭の中に入ってくる知覚や心象は、理解できる記号にだけ置き換えられ、現実はキュビストの作品のように歪み、砕け散っていた。
僕はいつでも死ぬことができた。何度も自分にそう言い聞かせ、ただひたすら来るべき瞬間を期待して待っていた。いつも死に向かうジェットコースターの最前席に座っていた。
バンドが稼いだ金を引き続き得るためには、精神分析医のユージン・ランディに診てもらうことが条件と告げられる。選択肢などない。しかし、それは延々と監視される中での薬漬けの地獄のような日々の始まりでもあった……。
映画『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』(LOVE&MERCY/2015)は、そんなブライアン・ウィルソンの監視された80年代と、『ペット・サウンズ』や『スマイル』といった“本物の音楽”の創造に取り組む60年代の姿が描かれた、すべての音楽/ロックファン必見の物語だ。
一人の人物を二人の役者が競演しているのも見どころで、60年代のブライアンを演じるのはポール・ダノ。80年代を演じるのはジョン・キューザック。監督は『ペット・サウンズ』を聴きまくっていたというビル・ポーラッド。
ビーチ・ボーイズと言えば、“夏のサウンドトラック”として思い浮かべる人が多いと思う。そこにはサーフィン、車、女の子、海、ビーチ、青い空といった風景が流れ、音楽も太陽の陽射しのように明るい。実際に1962年のデビューから4年間、ビーチ・ボーイズはヒット曲を量産して、同時代のバンドと比べても驚異的なペースで12枚ものアルバムをリリースした。そのほとんどがブライアンの曲であり、プロデュース作だった。
「Surfer Girl」「Fun, Fun, Fun」「I Get Around」「Don’t Worry Baby」「All Summer Long」「..