学校が終わるや、隆は一目散に家に帰り、昨日までに母親にせびった、小遣いの入った小銭入れを持ってその足ですぐに俊雄の家に向かった。俊雄と二人で大通寺に行く途中、野球仲間のところに立ち寄って声をかけた。結局いつもの野球仲間の三人組が集まった。
「お腹すいた」と誰からともなく声が出た。「そら給食だけやもんな」と隆がため息交じりに言うと「脱脂粉乳のミルク二杯は飲んだで」と次郎が得意げに言った。
「なんでや」と隆が聞くと「給食係やから残したらあかんちゅう訳や」と次郎は納得した様子だった。「それってお腹の具合大丈夫なんか」と俊雄が心配顔で聞くと「まあ今んとこはな」と次郎はにやついた。「そしたらたこ焼き一船買って仲間分けしよか」と隆が言い出すと「一船何個や」と次郎が言う。「確か八個入りや」と隆が答える。「一人二個で二つ余るな」と計算高い次郎が即答した。
「残ったたこ焼きはジャンケンで勝ったもん勝ちやな」と要領よく俊雄が仕切った。
「でもたこ焼き一個ではお腹辛抱できんな」と隆の腹持ちの不足が言葉に出た。
「他にはりんご飴かベビーカステラ」と隆の不足の思いが、食べ物の名前を呼び出した。
「値段的にはベビーカステラの方が少し安いかな」と計算の立つ次郎が答えた。
「りんご飴は食べる時、飴が溶けて手にベタベタつくさかい嫌やな」と隆の食べ物に対するだらしなさが出た。
「そうなるとベビーカステラで決まりやな」と俊雄が押し切った。
早速三人は分かれてたこ焼きとベビーカステラを買いに走った。たこ焼きはじゃんけんの結果、俊雄が勝ったもん勝ちになった。
「お腹がおさまったら今日は何して遊ぶ」と隆が投げかけると「当てもんやったらコルク銃、球出しやったらスマートボールぐらいかな」と速攻で次郎の講釈が始まった。
「でも遊んでる時間すぐに終わって使ってしまうし時間かけて楽しむんやったら指定の絵の型抜きかな、ちょうど今日は雨降った後で針でくり抜くのが、生地が湿って柔らかくしなって抜きやすいんや」と得意顔で次郎が答えた。「お前くわしいな」と隆が突っ込みを入れると「そら露店の事にかけては知り合いの連れがいてるさかいにな」と次郎が返す。「ひょっとしてその連れって、たこ焼き屋の難波くんの事か」と隆が問い返すと「するどいな、まあそんなとこやな何でも裏技ちゅうもんがあるさかいにな」と次郎はまんざらでもない顔をして見せた。
「そしたらみんな型抜きにしよう」と俊雄がまとめた。
型抜きの時間は思った以上にかかった。すでに日は西に傾きかけていた。家に午後七時には帰る約束だった。「あかん今日はここまでやな」とあせった隆がみんなに声をかけた。「遅れると明日げちゅうさん行かせてもらえへんし肝心の小遣いもらうんがなしになる」と次郎も慌てた口調で言った。「ほなみんな今日はこれでお開きや、抜いた生地の型全部おっちゃんに景品交換してもらおう」と俊雄がみんなをせかした。
「みんな明日の放課後は豊国神社に直接集合や、なんか町の案内看板の文句、手品みたいや、見るのはただタネも仕掛けもありませんやて、なんかえらい眉唾もんの話やな」と次郎が言うのを聞いて、父さんと同じ言い方やなと、隆は妙に感心した。
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